胃腸相談室 回答
Q:私は一日に5、6回は排便しないと気がすみません。
2回目以降はたいてい下痢で、こういう生活がすでに5、6年続いています。
いい治療法はないのでしょうか。
回答:
大腸自体にはレントゲンで見ても、内視鏡で見ても何も異常が発見できないのに、1日に何回となく排便して下痢をする人たちがいます。便培養をしてみても特定の病原菌が発見されません。こんな症状もほんの数日とか数週間程度なら下痢止めを服用していただくだけで治癒いたしますので何も問題はありません。ところが何ヶ月も何年も続く慢性の下痢となると問題です。なぜ下痢をするのでしょう。実は便意と便通は多分に習慣の影響を受けるものなのです。普通の人なら朝起きて朝食をとりますと便意が起き、前日食べたもののカス、つまり便が直腸の付近まで下ってきて便意が起き、1日分の排便があればそれですみ、あとは便意が起きません。ところがかなり神経質な人は1度排便したのにまたすぐ行きたくなり、この時はかなり硬い便がでます。するとまた30分もたたないうちにまた行きたくなり、この時は下痢に近く以後行くたびに下痢をするようになります。つまり、2度3度行くことにより水分の多い便が次の便意を誘発し、いわゆるしぶり腹という状態になって水っぽい便がでます。
このような人は鉄道会社の電車運転手、バスの運転手あるいは学校の教師などに見られ、1度仕事に就くと一定の時間便所に行けないのだということが引き金になって、仕事につく前に2度3度と便所に行くようになります。すると、そのあとの便意を誘発するようになって何回も下痢をするという事態が起こります。そうなると過敏性大腸症候群と呼ばれる状態になるわけです。
治療は強い下痢止めを差し上げるのは好ましくなく、むしろ鎮痙剤を用いたり、最近では便の水分を吸収してゲル化する薬を用い、便の水っぽさを防ぎ次の便を誘発しないようにします。それともうひとつ大切なことは、2度目排便したくなっても一寸我慢をするように指導しています。するとたいていの場合15分ほどで便意はおさまり、以後あまり行きたくはならないようです。また大腸の検査を充分したうえで、悪い病変はないのだからとよく説明し、内服を差し上げて2度目に行きたくなるのを一寸我慢してくださいと言います。たいていそうした指導でよくなるものです。要はその人の生活に合うように改善してあげることが大切だと思います。
ところがこれに似たものに、中高年女性、時には男性に、朝2~3回排便をしないと気がすまないという人がいます。しかしこの様な人は2度目3度目の便は多少軟らかくなりますが、形のある便で下痢ではありません。このような人の大腸のレントゲンをとってみますと、下行結腸からS字結腸、直腸が細く盲腸と上行結腸の大変大きい人です。このような人は便の貯留する所が盲腸及び上行結腸にあり、直腸にはあまりたまりません。そして少し直腸に便がくると便意があって出ますがあとが続きません。30分ほどしたら上行結腸から直腸までまた便が下がってきて便所に行きます。このようにして2~3回行ってやっと出てしまいます。従ってこのような人は大腸の構造を教えてあげ、便に2度3度行っても病気ではなく、このような習慣になっているだけですと教えてあげるようにしています。特別な治療の必要はありません。